ONLY ONE STORY

ONLY ONE STORY『19 母の日』

19 母の日

5月…、この時期になるとあの頃を思い出す。

父を早くに亡くし、母親一人で育ててくれたので貧乏だった。

子どもの日には、母が新聞紙でこいのぼりやカブトを作ってくれた。

このこいのぼりを右手にカブトをかぶり、近所の友達と走り回った。

そしてくたびれて家に帰ってくると、決して豪華ではないけれど

美味しい夕ご飯を作って待っていてくれた。

社会人になって初めての母の日、

何かプレゼントをと考えたが、気に入ってもらえなかったらと思い、

母と一緒に百貨店へ買いに行った。

母は「なんでもいいの?」と聞くので

「好きなものを何でも」と答えた。

母への感謝の気持ちだった。

母は化粧品コーナーに行き、口紅を持ってきた。

「それだけでいいの?」と聞くと、

「これが欲しかったの。ずっと化粧なんかした事なかったから。」

その言葉に思わず涙があふれた。

確かに母の化粧したところを見た事がなかった。

自分の事はずっとガマンして育ててくれたから。

レジでお金を払うと

「2900円」…こんなものさえ

ガマンしてきたのかと思うと、また涙があふれた。

「お母さんありがとう」

来年は仕事頑張って化粧品セットと服をプレゼントするね。

そして結婚して子供が産まれた。

妻もあんな思いするのだろうか。

愛する人たちのために家を買いたいと思った。

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